朗読会と「赤い鳥」
今月の終わりに朗読会を開くことになりました。
朗読は目白の「ギャラリア赤い鳥」のオーナーさん。この画廊は、児童文芸誌「赤い鳥」を創刊した鈴木三重吉の邸宅跡に建っています。そこで、鈴木三重吉と赤い鳥、そして夏目漱石一家との逸話などを少しご紹介したいと思います。
「日本の子供のためには僕は一流の文学者が進んで執筆しなければ嘘だと思う」
これは子供たちに質の高い文学を与えたいという鈴木三重吉の言葉です。けれど鈴木三重吉の若いころは、実は大の子供嫌いだったそうです。
夏目漱石に心酔し門下生となり、漱石のところに出入りしていた頃のこんな逸話が残っています。「吾輩は猫である」のモデルだった夏目家の猫の何回忌かで、皆で鍋を囲んでいた時、子供たちが騒いでいるのが気に入らず三重吉は鏡子夫人にこう言葉を投げつけたそうです。「ああ、愉快だ。しかし子供たちがうるさくてかなわんですなぁ。奥さん、こういう時にはいっそ子供たちを風呂敷に包んで押し入れにつめこんでおくと良いですなぁ」これを聞いた長女の筆子は「鈴木さんのバカ!大っ嫌い」と怒り、子供部屋に閉じこもってしまったそうです。
そんな三重吉でしたが、自分に子供が生まれると一転して大変な子煩悩になり、自分の子供に読ませたいと思う子供向けの優れた文学作品が少ないことに気づき、児童文芸誌「赤い鳥」を創刊しました。
そして前述のような考えから、芥川龍之介や泉鏡花、島崎藤村、徳田秋声、小山内薫といった錚々たる作家たちが集まって童話を執筆したのです。大正ロマン、大正デモクラシーと呼ばれる時代の中で生まれた「赤い鳥運動」の始まりです。
芥川龍之介の「蜘蛛の糸」や「杜子春」は今も読み継がれる名作ですね。
また、北原白秋や西条八十といった詩人たちも多くの童謡を書いています。北原白秋がこの「赤い鳥」で発表した童謡は「赤い鳥小鳥」「からたちの花」「ねんねこうた」など 300篇以上にのぼります。
「赤い鳥」の創刊は大正7年、漱石はこの時すでにこの世の人ではありませんでしたが、漱石の妻鏡子や娘の筆子は大の子供嫌いだった鈴木三重吉の豹変ぶりを面白がって見ていたそうです。
尚、2017年は漱石生誕150年、2018年は「赤い鳥」創刊100年でした。
朗読会は1月27日(日)、1回目は13:30開演、2回目は15:30開演です。
朗読作品は 芥川龍之介「蜘蛛の糸」、浅田次郎「雛の花」です。